アルツハイマー病患者の脳に沈着しているアミロイドβ蛋白質(Aβ)の生成が、アルツハイマー病の発病の鍵になることが、ここ数年の研究で明らかになっている。本研究は、この前駆体蛋白質(APP)が細胞内のどこで生成されるか、その分泌にどの情報因子が関与しているかを明らかにするものである。 正常の脳ではAβは生成せず、APPはAβの真ん中で切断され細胞外に分泌される。この切断が小胞体またはゴルジ体で行われていることを小胞輸送阻害物質を用いた検討や、小胞輸送シグナルを欠失させたり付加したりすることによって明らかにすることができた。 本年度は、小胞体移行シグナルであるアデノウイルスE19蛋白質のC末端10残基をAPPのC末端に移設した変異体(APPE19)と、APPのC末端から10残基欠失させただけの変異体(APPδ10)を作製し、APPの細胞内移行と分泌に及ぼす影響を見たところ、APPE19では分泌量が低下すると共に、小胞体からゴルジ体へ移行してきたAPPが分泌経路をとらずに戻っていくことを明らかにした。一方APPδ10は、分泌方向に偏った結果が得られた。同様に、リソソーム移行シグナルGYとエンドソーム移行シグナルNPTYを欠失させると、両方ともAPPは分泌方向に偏ることが判明した。 この結果は、細胞内ソーティングシグナルがAPPの代謝を劇的に変化させることを示している。これらの知見をもとに、APPの細胞内での寿命を短くすることによってアルツハイマー病の発病を抑える新しい治療法の可能性が示唆された。
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