(1)正常動物登上線維応答の性質と生後発達: マウスの登上線維応答の性質を日齢をおって電気生理学的に調べた。生後1週から2週にかけて、登上線維による多重支配を受けるプルキンエ細胞の比率が大きく減少した。また、生後1週目の登上線維応答は、EPSCの立上り時間が遅いこと、登上線維2発刺激に対するpaired-pulse depressionの程度が強いことなど、成熟型の登上線維応答とは性質が異なっていた。また、ラットを用いてpaired-pulse depressionの性質を調べ、伝達物質放出減少がその主因であることを明らかにした。 (2)mGluR1、Gαq、PLCβ4ノックアウトマウスの解析: プルキンエ細胞では、代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)、3量体GタンパクGq、phospholipaseCβ4(PLCβ4)を介してprotein kinase Cγ(PKCγ)の活性化が起こると考えられる。mGluR1、Gqのαサブユニット(Gαq)、PLCβ4のノックアウトマウスを用いて登上線維シナプス発達に及ぼすこれらの関与を調べた。いずれも、生後3週目以降に約1/3のプルキンエ細胞が複数の登上線維による多重支配を受けており、この発達の異常は、以前報告したPKCγノックアウトマウスと同様であった。これらより、mGluR1-Gαq-PLCβ4-PKCγを介するシグナル伝達系が過剰な登上線維排除に必須であると考えられた。 (3)GluRδ2ノックアウトマウスの解析: プルキンエ細胞に特異的なδ2型グルタミン酸受容体(GluRδ2)ノックアウトマウスでは、小脳平行線維-プルキンエ細胞シナプスの形成が正常の約半分に低下していた。また、登上線維シナプスの電気生理学的性質を調べた結果、登上線維がプルキンエ細胞の遠位樹状突起に、過剰な異所性シナプスを形成していることがわかった。
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