研究概要 |
本研究は光ファイバーを用いた膜電位の光学的測定法を用いて、嗅覚情報伝導を機能的に解明することを目的とする。膜電位感受性色素で染色したラットの嗅球から、独自に開発した光ファイバーを用いて膜電位を光学的に記録する独自の方法を導入することで、従来の細胞対細胞の1対1の対応関係でなく、もっとマクロな視野に立って、細胞群同士の対応関係という側面から嗅覚の情報処理の解明をめざすものである。 測定システムは、光源に干渉フィルターを設置し、照明用、受光用の2つの光ファイバーの束を測定端では1本になるようY字型にまとめた光ファイバーを用い、膜電位感受性色素で染色した嗅球から、落射螢光の原理で測定するものである。作業孔を持つ光ファイバーの開発、I-V変換器の小型化に加え、基線のゆらぎの問題も、ランプを定電流動作で点灯させることで解決した。膜電位感受性色素は、RH-414,RH-421,RH-704,RH-795をテストしたが、一長一短であった。結局、single sweepでの記録では、興奮の有無がわかる程度のシグナルしか得られず、加算処理無しでは、波形の解析は行えなかった。 ラットの嗅球から記録する実験系は最終年度で確立され、現在の段階で、Journal of Neuroscience Vol.73:2017-に掲載されているSalamander嗅球からの波形に似たシグナルが得られるようになった。しかし、詳しい解析の結果、この光学的シグナルの大部分は、実は、膜電位由来のものではないことが示唆されるに至り、一流誌に掲載された内容ではあるが、かなり懐疑的であることが明らかになった。その結果、引き続き、純粋に膜電依存性の光学シグナルを得るための方法を模索する必要がある事態を招いている。
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