発達期の大脳皮質視覚野ではGABA作動性の抑制性シナプスに長期増強と長期抑圧が生じる。抑制性シナプスの長期抑圧は興奮性シナプスの活動によりNMDA受容体チャンネルを通してシナプス後細胞にCa^<2+>が流入すると生じる。これに対して、抑制性シナプスの長期増強の誘発にはシナプス後細胞のGABA_B受容体とG蛋白質の活性化、そしてCa^<2+>濃度の上昇が必要である。本年度の研究では、この抑制性シナプスの長期増強と長期抑圧に関して、シナプス後細胞内の機構を更に解析した。生後15-25日のラット視覚野の切片標本において興奮性シナプス伝達を薬理的にブロックした。この条件下で、IV層の刺激によりV層細胞に引き起こされる抑制性シナプス後電流をパッチ電極でwhole cell記録し、高頻度の条件刺激をIV層に加えて長期増強を引き起こした。パッチ電極にIP_3受容体の拮抗薬のヘパリンを加えても、フォスフォリパーゼCの阻害薬であるU73122を加えても長期増強は生じなくなった。したがって、高頻度刺激によりシナプス後細胞のGタンパク質にカップルした受容体が活性化されてIP_3が生成され、IP_3受容体の活性化を介して細胞内ストア-からCa^<2+>が放出されることが長期増強を誘発するのに必要と考えられる。さらに、シナプス後細胞におけるCa^<2+>の役割をケージドCa^<2+>のNitr5をパッチ電極に加えて調べた。紫外線照射によりシナプス後胞内のCa^<2+>濃度を上昇させると長期抑圧は起こったが、長期増強は生じなかった。この結果は、シナプス活動によりシナプス後細胞にCa^<2+>が流入してCa^<2+>濃度が上昇するだけで長期抑圧が生じることを示しており、細胞内ストア-からCa^<2+>が遊離されることは長期増強を引き起こすために必要な条件であるがそれだけでは十分でないことを示唆する。
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