研究概要 |
酵素は生体内触媒であり,穏和な条件で活性を示すことから,様々な分野で利用されている。しかしながら,酵素はpH,温度など外部環境の変化によって容易に失活することから工業的展開を図るうえでその安定性の向上が望まれる。そこで本研究では,側鎖に糖を有する高分子を添加することによる酵素の安定化について検討を行った。その結果,この高分子をわずか1%添加することで酵素の安定性を大幅に向上させることができることを見出した。まず乳酸脱水素酵素に対して有効性が確認された。例えば,乳酸脱水素酵素の例では遊離の酵素が室温30℃で100時間後には活性が20%にまで低下するのに対し,側鎖に糖を有する高分子を添加することで,80%以上の活性を保った。このような有効性は乳酸脱水素酵素だけでなくトリプシン,リゾチーム,アミラーゼなど様々な酵素に対して,また,放置安定性だけでなく,熱安定性,pH安定性,凍結・再融解安定性,凍結乾燥性など想定される様々な環境変化についていずれも有効であることを示すことができた。さらに添加する高分子として,側鎖に糖を有する共重合体を合成して添加したところ,より一層の安定化効果の存在することを見出した。これらの結果は,高分子の分子設計により生体物質との相互作用を制御できる可能性を示唆している。そこでより詳細な分子レベルでの知見を得ることを目的として,引き続いて核磁気共鳴スペクトルを利用した検討を進めている。一部予備的な結果において既に,側鎖に糖を有する高分子の存在により酵素の形態変化が抑制されるとのスペクトルを得ており,今後より一層詳細な解析を進め,側鎖に糖を有する高分子による酵素の安定化機構の解明を目指してゆく予定である。
|