本研究は、重度の尿失禁患者を対象として尿失禁防止のために通常は尿道を締め付け、排尿時は尿道を開放し、さらに就寝時は尿道海綿体の壊死を防ぐために締め付け圧力を低く可変できる形状記憶合金を用いた体内埋め込み式の人工尿道バルブの開発をするもので、平成8年度から平成10年度まで実施した。 1. 人工尿道バルブとしてU型形状と楕円型形状のバルブを開発した。バルブ動作は形状記憶合金により尿道を締め付け、形状記憶合金のまわりを覆うシリコン樹脂の弾性力により尿道を開放する方式とした。 2. U型形状バルブは形状記憶合金の引張試験シミュレーション結果をもとに、形状記憶合金の設計条件の設定を行う方式を求めた。また生体内温度環境化で繰り返し動作実験を行い、締め付け、開放の動作による形状記憶合金とシリコン樹脂の疲労特性を求め、104回の動作まで異常がないことを確認にした。 3. 尿道モデルによりU字型バルブの締め付け力と尿道内圧の関係を求めた。その結果、漏れの状態がなく、バルブの締め付け圧力が括約筋の締め付け圧力の10kPa以下にできた。 4. 形状記憶合金を動作させる方式は通電による発熱とし、非定常熱伝達シミュレーション結果と通加熱実験から体内埋め込み条件である蛋白質性度以下で、繰り返し動作可能な人工尿道バルブ尿道バルブを開発した。 5. 楕円型人工尿道バルブによる生体内温度環境化で繰り返し動作実験を行い、締め付け、開放の動作による形状記憶合金とシリコン樹脂の疲労特性を求めた結果、104回の動作まで異常がないことを確認にした。また、通電による発熱も蛋白質変性温度以下にすることができた。また尿道モデルによる楕円型人工尿道バルブの漏れは全く認められず、締め付け圧力も問題がなかった。 6. U型、楕円型の両人工尿道バルブの加熱時間と冷却時間の関係を生体内温度環境化で実験的に求め、排尿後のバルブの締め付けに要する時間を短縮することができた。 7. 腰部に取り付けることができる携帯用の小型駆動回路の設計、充電式バッテリー回路の開発を行った。 8. 就寝時に尿道海綿体の壊死を防ぐために締め付け圧力を低く可変する方式として、U型と楕円型人工尿道バルブを併用することにより圧力を制御することが可能となった。 9. U型、楕円型人工尿道バルブと携帯用の制御装置により動作実験を行い、1回の充電で50回の排尿を行うこと可能な人工尿道バルブシステムが構築でき、人工尿道バルブシステムの生体への応用として期待できることを明らかにした。
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