細胞磁気計測の基本的な原理は、細胞(ここではハムスターの肺胞マクロファージを用いた)に磁性粒子を導入し、これを磁化し細胞から磁界を発生させ、この細胞磁界を計測するというものである。磁性粒子は細胞内の食胞と呼ばれる小器官に存在するから、細胞磁界を測定することは食胞の運動を測定することになる。磁化後、細胞磁界は緩和する。これは、食胞の方向をランダムにするような細胞内の力によるものである。従って緩和の速度を測定することによって、食胞を動かすエネルギーとそれに対する抵抗となる粘性などの推定をすることができる。現在までに我々はこのエネルギーと、原形質を液体とみなしたときの粘性の大きさについて、細胞を様々な状態にして推定してきた。本研究ではそれらの成果をふまえ、粘性の他に弾性も加えて、食胞の周囲の構造を粘性要素と粘弾性要素が直列に接続されたモデルを作った。このモデルを駆動する力は、ランダムな細胞内運動と外部から磁界によって食胞に与える回転力である。まず確率微分方程式で表せるこのモデルの性質を解析的に、また多くのシミュレーションによって調べた。次に、このモデルに適応した実験として、上記の緩和実験の他に、磁性粒子の磁化後、粒子の磁化に直接影響を与えない程度の大きさの磁界で食胞をゆっくり回転させ、その後その回転が弾性によってある程度もとに戻る様子を、細胞磁界測定によって測定する方法を考案し、それを能率的に行えるように実験装置やソフトウェアを改良した。これを用いて測定した結果をモデルによって解析し、モデルに含まれる2つの粘性要素、1つの弾性要素のパラメータ推定を行った。また、コルヒチンやサイトカラシンなど、細胞骨格に影響を与える薬品を用いてこの実験をすることにより、これらの力学的な要素に微小繊維、微小管などの細胞骨格がどのように寄与しているのか研究中である。来年度にこれを集中的に行い、細胞骨格と食胞の運動の関係に対して、矛盾のない説明ができるような結果を得たい。 光学的な測定に関しては、実験技術の習得に時間がかかり、まだ思うような実績を上げていない。これを磁気計測と併用することにより、実験結果の確認に役立つと思われるので、是非成功したいと思っている。来年度の課題である。
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