高齢者の生活活動を支援するために、種々の物理的機能を補助する機器が普及しているが、その安全性や心理学的背景についてはまだ充分検討されていない。第一段階として、最も問題が顕在化しやすい移動・移乗機器について調査を始めた。支援機器の事故例については、政府関係機関、関係団体等に集積されたデータ・報告、またウェルフェアテクノハウスでの試用による不具合の報告等の資料が入手できた。単純な統計には意味がないので、事例を個別に分析した。また実際の移動・移乗機器について、試用した若者および高齢者の感想を詳しく聞いた。以上の予備的調査から、次の状況が読み取れた。 1.物理的な事故として報告された事例には、設計者の予想したものは少ない。一般に使用者には機械の知識がなく、予想外の形で機器を使用する。設計者がこのことを知るのが極めて重要である。 2.機器使用の際の恐怖感には、慣れによって消滅するものと、そうでないものがある。次の要因が認められる。 (1)移動機器の傾きや動揺から、転落など物理的事故が想像される場合には、だれでも多少の恐怖感を持つ。 (2)視界が限られる場合には、隔離されて安心する人と、介護者か見えず不安になる人がいる。これは性格や人間関係に依存する。 (3)介護者と対面することが重要である。声でも効果がある。 (4)吊り上げ部など、いかにも機械らしい部分が見えて恐怖感が生じる。 これらをさらに分析し、設計者に役立つ指針を策定したい。
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