どの細胞も温度変化に影響され、温度低下に伴って活動度が下がるのが通常であるが、イセエビの心筋細胞は、静止電位や活動電位が温度に反比例して変化し、心機能が高まる。本研究の目的は、この特異な逆反応を生ずる膜特性あるいはチャネル制御機序を解明する所にある。しかし、この研究に至る前に、いくつかの問題を解決する必要があった。即ち、良好な単離細胞を調製し、これにパッチクランプ法を導入して研究するための実験設備の整備とその取扱いに習熟する事であった。また、既存の微小電極法と心臓組織標本による実験で、問題点を明確にしておくことであった。 先ず、心筋細胞および神経節細胞を単離する実験を試みた。その結果、まだ取得効率は悪いが、心臓組織をコラゲナーゼで処理して細胞を分離し、いくつかの健全な単離細胞の標本を得ることができた(矢沢)。 12月末にやっとパッチクランプ用の備品一式が整備でき、ホールセルクランプ法およびパッチクランプ法を用いて、単離した筋細胞や神経節細胞の膜電流を計測する実験に着手した(蔵本)。また、イオンチャネルや細胞内の信号伝達系を制御または阻害する物質を作用させ、膜の温度応答に関わるイオンチャネルの挙動を調べる実験にも着手した(蔵本)。しかし、実験が首尾良く行かず、目的のデータはまだ得られなかった。研究計画どうり、来年度に成果を期待している。 微小電極法で、冷応答にCa^<++>チャネルの活性化があると予測できていたが、K^+チャネルの抑圧による可能性もあった。この可能性はK^+チャネルの抑制剤(Tetraethy lamm onium)を投与して調べた結果、除外できた。従って、来年度はCa^<++>チャネルの挙動に絞った研究に集中する事ができる。
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