甲殻類の心臓に存在する冷応答細胞の膜特性の解析

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08459004
• 研究機関: 筑波大学
• 研究代表者: 蔵本 武照 筑波大学, 生物科学系, 助教授 (40015813)
• 研究分担者: 矢沢 徹 東京都立大学, 理学部, 助手 (30106603)
• キーワード: 甲殻類 / イセエビ / 心筋細胞 / 膜特性 / 温度補正 / カルシウムチャネル / Gタンパク / 囲心腔ホルモン

研究概要

甲殻類十脚目(エビ)の心筋細胞膜の興奮度は、温度降下に比例して上がり、心機能が高まる。本研究の目的は、この特異な膜特性やイオンチャネルの制御機序を解明することにあった。心臓組織内の細胞にパッチクランプ法を適用し、筋収縮と同時に、静止電流、シナプス電流およびスパイク電流が安定に記録できた。また、イオンチヤネルの特異的阻害剤の作用に応じた膜電流の変化が観測できた。従って、心臓の収縮を見ながら、筋膜のイオンチャネルの挙動が解析できた。これらの研究成果を下記に要約した。
1) 温度降下に伴って増す心筋膜のスパイク電流は、ニフェディピンとコバルトイオンで阻害できたので、Lタイプに分類されるCa^<2+>チャネルを介して生じていると考えられた。
2) 心筋の電位依存性のCa^<2+>電流は、百日咳毒(pertussis toxin;PTX)で阻害されたので、温度に依存したスパイク電流の増減はCa^<2+>チャネルを制御しているGTP結合タンパク質(Gタンパク)およびK^+チャネルの制御と関連した現象であることが示唆された。
3) 心筋細胞内へGDP-β-SとGTP-γ-S(Gタンパクのサブユニット)を各々注入した結果、細胞内向きのCa^<2+>電流は、それぞれ、減少と増大を示した。これらのサブユニットは、Ca^<2+>チャネルの制御に関与しているので、冷応答性のCa^<2+>電流の変化にGタンパクが関与していて、Ca^<2+>チャネルの開閉の程度がGタンパクへの温度の作用によっていると考えられた。
4) 温度降下に依存したCa^<2+>チャネルの活性化は、プロクトリンやF1(ロブスターの囲心腔分泌器官に含まれるペプチド類)の投与で引き起こせた。また、ホルボールエステルの投与で、F1の作用が模倣できた。従って、Cキナーぜ系を介してGタンパクの活性を高め、温度降下に伴ってCa^<2+>チャネルが開く確率をより大きくしているものと考えられた。

研究成果

• [文献書誌] Kuramoto,T.: "Enhancement of Doth cardiuc contraction and metabolism by a transient cooling of the lobster Panulirus japonicus." Marine and Freshwater Research. 48. 857-862 (1997)
• [文献書誌] Tani,M.: "Cool-sensitive neurons in the ventral nerve cord of crustaceans." Comparative Biochemistry and Physiology. 119A. 845-852 (1998)
• [文献書誌] Tani,M.: "Effects of cooling on the abdominal ganglion muscle preparation of macruran decapod crustaceans." Comparative Biochemistry and Physiology. 119A. 861-868 (1998)
• [文献書誌] Wilkens,J.L.: "Comparison of the roles of neurohormones in the regulation of blood distribution from the hearts of the American and Japanese lobsters." Journal of Comparative Physiology B. 168. 483-490 (1998)
• [文献書誌] Kuramoto,T.: "Ca^<2+> channel activity modulated by cooling of lobster cardiuc muscle." Zoological Science. 15,Suppl.113 (1998)
• [文献書誌] 蔵本武照: "運動適応の科学(適応の生物モデル)" 石河利寛、竹宮隆編 杏林書院, 9-25 (1998)