甲殻類(エビ)の心筋は心臓神経節からの神経インパルスを受け、通常、興奮性接合部電位(EJPs)の加重のみで収縮している。ところが、温度降下に伴い活動電位(スパイク)がEJPsの上に生ずるようになり、その振幅は温度降下に比例して増大した。このスパイクは低温下での筋収縮に寄与していると考えられた。冷応答性のスパイクの生成に関連して、Ca^<2+>チャネルが寄与していることは、Coイオンによる阻害効果から明らかであった。しかし、スパイクの振幅変化にK^+チャネルの寄与があるのではと疑われた。そこで、K^+チャネルの寄与の有無を先ず調べた。K^+チャネルの阻害剤のTEA(5mM)を投与すると、EJPsの振幅が増大し、スパイクが起こることもあったが、K^+チャネルへの温度作用でスパイクが生成することはなかった。従って、EJPs上に生ずるスパイクは、閾値の高いL-typeのチャネルを介して生じており、温度降下に比例して内向きのCa^<2+>電流が増大するものと解釈された。事実、Ca^<2+>電流がニフェディピンで阻害された。また、このCa^<2+>電流の増大にGTP結合蛋白質(Gタンパク)が関与している可能性が考えられた。そこで、Gタンパクのサブユニット(GDP-β-SとGTP-γ-S)の細胞内への注入実験を行った。その結果、内向きのCa^<2+>電流がGDP-β-Sの注入で減少し、GTP-γ-Sの注入で増大した。これらのサブユニットはCa^<2+>チャネルの開閉の調節に関与している。従って、このチャネルの開閉の程度がGタンパクへの温度の作用で変わると考えられた。すなわち、筋膜の興奮度が温度変化と逆の方向に変わり、補正されることが示唆された。一方、L-typeのCa^<2+>チャネルを阻害するニフェディピンやコバルトイオンを繰返し与えていると冷応答性のCaスパイクが時々生じなくなった。しかし、この消失したCaスパイクが、囲心腔ホルモンのプロクトリンやFl(a FMRFamide-related peptide)を与えると回復した。従って、体温降下に対処する心筋膜の興奮補正機構は囲心腔分泌器官の活性化と同調してなされていることが示唆された。
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