本研究課題の目的は長鎖DNA分子の高次構造の特性解析を押し進めることであった。こでまでに本研究室では、DNA単一鎖の相転移挙動の蛍光顕微鏡を用いた直接観察による解析と、その相転移産物の電子顕微鏡観察による微細構造解析の両者を照合することにより、『長鎖DNAの単分子結晶は一次相転移を通じて形成される』ことを明らかにしてきた。 本研究期間中の研究成果を集約すると 1.長鎖DNAの単分子結晶の形成過程を溶液中での直接観察によって捉え、それが核形成・核成長の一次相転移プロセスであることを明らかにした。2.さらにそのダイナミクスをモンテカルロ・シミュレーションによって理論的に再現することに成功した。3.結晶形成の速度論に関する理解に加え、結晶の平衡論的な安定条件を理論的に予測し、実験によって検証を行なった。4.DNAが分子内相分離を引き起こす凝縮条件を同定した。これはゲルでは似た現象が知られているが、単一の線状高分子内で観察されたのが初めてである。5.遺伝子導入効率に対するpoly-arginine濃度依存性と、DNA複合体の構造との相関を明らかにした。することを明らかにした。6.また、遺伝子導入に用いるDiotadecylamidoglycylspermin(DOCS)とDNAとの相互作用を、蛍光顕微鏡ならびに電子顕微鏡を用いて調べた。DNA/DOCSの凝縮構造と、遺伝子導入の効率の関連性を明らかにした。 今年度得られた上述の知見によって、相転移現象の動因に対する理論的理解が一段と深まったことに加え、相転移を通じて形成される構造の制御に関しても、実験と理論の両面について新しい地平を拓くこととなった。さらに遺伝子導入へその理論と実験結果を応用することに成功した。以上6点の知見は全て平成8年度から9年度中の国際学術誌に掲載された。
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