ラマンスペクトル測定によって高圧力によるグラファイトの構造変化について解明を進めるために、ダイヤモンドアンビル高圧装置において、ダイヤモンドアンビルによる平行表面収差を補正した対物レンズ、ノッチフィルター付モノクロメータ、高出力アルゴンレーザ、および冷却CCD検出器を用いて顕微鏡ラマン測定系を構成して高圧装置に結合した。この装置を用いて、ダイヤモンドアンビル高圧室における高配向熱分解黒鉛(HOPG)のベ-サル面に対してラマンスペクトルを測定した。ダイヤモンドによるラマンバンドの強いピークの影響によって1stおよび2ndオーダ領域におけるグラファイトの完全なスペクトルは得られなかったが、E_<2g>モードによる1581cm^<-1>バンドと状態密度に起因する1355cm^<-1>バンドの倍音バンド(2Dバンド)を検出した。これらのバンドに対して、3.3GPaまでピーク位置の圧力依存性を測定し、さらに波長514.5、488.0、および457.9nmの励起光を用いて高圧力下における波長依存性について調べて、次のような結果を得た。(1)E_<2g>および2Dバンドともに高圧力により高波数側にシフトすること、(2)2Dバンドの圧力依存の度合はこれまでに測定されているE_<2g>モード(4.7cm^<-1>/GPa)のものの約2.7倍であること、(3)測定した圧力範囲では波長依存性について大きな変化が見られないこと、および(4)励起波長514.5nmの測定において、E_<2g>および2Dバンドともに圧力を増大させると、それらのピーク強度が大きくなることがわかった。2Dバンドの圧力依存性は今回の研究によって初めて明らかにされたものであるが、2Dバンドの高圧力によるシフト量が非常に大きいこと、およびこのバンドが波長依存性を有していることから、グラファイトの構造変化を調べる上で2Dバンドは重要な鍵となるバンドであること、また波長依存性についてさらに高圧力下での検討が必要であることを示唆する結果が示された。
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