研究概要 |
平成8年度は、実験計画に沿って、以下の研究を遂行し、一部を図書の一部で公表した。 1.鉄器出土跡および製鉄遺跡に関する調査 東北の遺跡遺構の調査は、多賀城はじめ胆沢秋田払田などの城柵、宮城の柏木、茂庭嶺山B、C、青森杢沢などの古代製鉄遺跡について情報資料の収集をするとともに、これらの現地に赴き、鉄関連出土品の多くを観察した。その結果、製鉄の遺跡からの出土土器・鉄器および関係する資料の中から、鉄器生産に至った時期とその直接の原因、および背景が明らかになった。それぞれの組織、成分分布については、すべに詳細に調べられているが、加工履歴や錆の評価については未だ不明であり、この件については、東北以外の地域の出土品の特性とも比較し、因果関係やたたら製鉄技術と歴史的位置づけについて検討する予定である。 2.近世のたたら製鉄技術について材料、地域別に調査し、形態、還元鉄の組成、強度による年代考証、因子をおおよその整理が可能であることが分かった。すなわち、日本海の海路による、大陸文化および九州・幾内・北陸から経路とシベリアやオホーツクからの経路が別個にあって、それらが東北独特の形式に淘汰されているように思われる。このことについては、平成9年度に詳細に考察する。 3.鉄の鍛治については、塑性加工学から詳細に検討した。特に古代製鉄および鍛治技術では、道具の生産には「塑性加工による接合」が重要な役割を果たしてきている。このことから、鍛造およびクラッド圧延による、熱間および冷間接合加工を行なった。高炭素の刃物鋼として(SK-3)、合金工具鋼としてCr-Wを含む(SKD-4)、Si,Mn,Mo,Vを含む(SKT-5)について、極低炭素鉄および一般構造用鉄(SS41)との鍛接における変形を詳細に調べた。鍛接の加工率、温度および含有元素により接合性は大きく変化した。特に鍛接界面の光学および電子顕微鏡観察では、狭い領域に微細な動的再結晶が並んでいる。このことは、古代から近世までの刃物や各種鉄製品の加工にはかなり高度の加熱設備と成分調整技術が東北地方に流入してきていたことを示唆している。
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