円二色性(CD)は回映軸を持たない分子(タンパク質やDNA等多くの生体分子)の高次構造を知るために重要な手法として、その地位を確立している。しかしその原理的重要性とは別に、装置的な制限からその大きいポテンシャルを、現在は有効に利用しているとは言い難い状況にあった。それはおもに時間分解能が不足しているところにある。ここでは、2つの手法による時間分解円二色性検出装置を開発した。 1、まず、市販の円二色性検出装置を改造することで、ミリ秒以上の時間分解スペクトルを測定することを試みた。円二色性検出装置から信号を直接取りだし、低温用温度可変装置を取り付けることで数十マイクロ秒の時間分解能で時間分解スペクトルを測定できた。 2、また、これまで左右の円偏光を時間的に変調して検出していた時間変調法に対し、偏光を空間的に変調してその吸収量の差を、過渡回析格子法という一種の非線形分光法で捕らえる手法を試みた。空間的な円偏光の変調は、お互い直交した二つの直線偏光を用いることで容易に得ることが出来る。この手法により、感度良く円二色性検出に成功した。また、この手法のメリット、欠点を理論的に詳しく検討し、その感度や時間分解能の限界を示すことができた。 現在、この手法を用いて生体分子系への応用を試みている。
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