本研究では植物の高温耐性および高温検知機構の解明を目的として、通常の植物の生育温度(10〜30℃)で変性し、かつ熱ショックタンパク質と相互作用するタンパク質を検索し、それらの遺伝子をラン藻や植物に導入して、通常の生育温度で熱ショックタンパク質を大量に発現する形質転換体の作製を試みる。この目的のためには低温で変性するタンパク質が必要となる。低温環境で生育する好冷性細菌の最適生育温度は0〜15℃であり、このような好冷性細菌の酵素は、一般的な細菌の酵素よりも低い温度で変性する可能性がある。本年度は目的とするタンパク質を得るための第一歩として、南極域に生息する最適生育温度が好冷性細菌Vibro sp. Stain ABE-1に含まれる一般的な酵素の1つで、既に塩基配列が明らかとなっているイソクエン酸デヒドロゲナーゼについて変性温度の解析を行った。 Vibrio sp. Strain ABE-1の部分ゲノムDNAライブラリーを作製し、これを利用してイソクエン酸デヒドロゲナーゼの遺伝子を単離した。これを大量発現用ベクターに接続し、大腸菌において大量発現させ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼを単離精製した。単離精製した標品を25〜45℃の各温度で10分間処理したのち、25℃においてNADPHの吸光度変化から反応速度を求めた。温度処理による反応速度の変化から、Vibrio sp. Strain ABE-1のイソクエン酸デヒドロゲナーゼは約40℃、10分間の処理によって完全に活性を失うことがわかった。しかし予想に反してこの変性温度は通常の温度で生育する豚の心臓から精製されたイソクエン酸デヒドロゲナーゼの変性温度とほとんど同じであり、本研究で必要とされる低温で失活する酵素の候補としては利用できないことが判明した。現在すでに作製されたDNAライブラリーから別のタンパク質を検索し、それぞれの変性温度の検定を進めている。
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