研究概要 |
本年度はまず,複雑な実構造物では,原理的には境界要素法による解析が可能であっても要素数が膨大となり解析不可能となる場合があるので,これに対処する方法について展望した.環境の違いや時間の経過による分極特性の変化を考慮した実際の海水ポンプに対する解析結果の実験的検証,真鍮製の管板に固定された数千本のステンレス管に海水を流す熱交換機に対する巨視的分極特性の利用,大型船舶のペイント欠陥の同定やカソード防食用供給電流の最適化手法など様々な研究・工夫を,本研究の位置付けとともに再確認したばかりでなく,次に示す別の考え方に基づく方法を着想した.この展望結果を1999年4月に米国で開催されるNACE-Corrosion'99のTopical Symposiumで発表する予定である. いっぽう,境界要素法においては密行列を係数とする代数方程式を解かなければならないので,LU分解などの直接解法を用いた場合,未知数の数をN_0とするとO(N^3_0)の計算量とO(N^2_0)の記憶量(反復解法を用いても計算量はO(N^<2+δ>_0)(0≦δ≦1))が必要となる.したがって一般に,大規模な問題を取り扱うためには特別の工夫が必要となる.このため,ポテンシャル問題,静的および動的弾性問題,き裂問題などの境界要素解析に対して,計算量をO(N^<1+δ>_0)に,記憶量をO(N_0)に減少することのできる高速多重極展開法を利用するための研究が活発に行われている.そこで,この方法を3次元腐食問題に適用することを試みた.腐食問題では,支配方程式がラプラス方程式となるので,上記のポテンシャル問題に対する研究結果の多くが利用できる.しかし,無限場に対する対応,分極特性に起因する非線形性の取扱い,パイプ要素を用いた場合の多重極展開などについては新たな検討が必要となるので,これらの点について研究し,結果を材料学会誌に投稿した.
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