研究概要 |
近年,生命体材料の分子構造計測技術および計算科学解析技術の進歩は著しいものがある.本研究では,力学負荷と分子レベルの形態計測が可能な実験装置,および分子力学解析が可能な並列計算を行うことで生命体分子の機能発現メカニズム解明,バイオミメティックス材料創成支援,さらにはバイオミメティックス材料の機能評価を行うことを目的とした分子力学適応評価試験システムの構築を行っている.この力学負荷装置は,生命体材料が持つ機能の中でもその原理解明への要求が高い力学負荷に対応した自己組織化・自己修復のメカニズム解明を主目的とする.将来的には.マイクロマシンに利用できる能動的収縮運動機能を持つ人工材料,生命体との力学的適合性の高い医療用材料,例えば人工骨,人工歯および人工関節,あるいは損傷回復機能を持つ高機能分子材料などの開発のための基礎的知見が得られるものと考える. 本年度の研究では,(1)培養した生体細胞(筋および骨細胞)を用いた繰返し引張り圧縮負荷下の自己適応組織化の過程観察のための試験装置の制作,(2)細胞(骨格筋)の培養とその力学負荷に対する自己増殖・形態形成適応に関する基礎実験,(3)筋細胞の基本ユニットであるサルコメアを構成するアクチン(F-アクチン)およびミオシン頭部S1の集合分子,および骨細胞を構成するコラーゲンおよびハイドロキシアパタイト融合分子について分子力学,分子動力学解析を行った.(1)では油圧サーボアクチュエータと制御ユニットを購入し,シリコン板と膜を重ね合せた培養装置とそれを取り付ける治具の設計制作を行った.つぎに,(2)では骨格筋細胞の力学負荷試験を行い,繰り返し引張りの方向に対して90度方向に細胞が回転する形態変化を起こすことが確認された.(3)では,ミオシン頭部S1にATPあるいはADPが結合した場合と全く結合の無い場合の比較を行い,滑り運動を誘起することと関連すると思われる原子揺らぎ,柔軟特性の変化についての知見を得た. 以上のように,本年度は,力学負荷計測装置を完成させ予備的実験を行い,さらに,分子/量子生物学に基づくコンピュータシミュレーション技術の展開を行った.次年度以降は,さらに,生命体分子材料の力学モデルの構築手法の確立による生命体材料の形態形成・自己組織化のメカニズム解明を目指す.この分子レベルの機能解明を基に,非晶質と単原子結晶との中間に位置付けられる不均質・高機能分子材料としての人工生命体材料開発の基礎技術の蓄積ができるものと考える.
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