研究概要 |
無応力状態の結晶格子表面の格子間隔は約0.2nmで安定しており,これは普遍的な長さ基準になりうる.また,走査型トンネル顕微鏡(STM)は,実時間大気中で原子像を捉えることのできる顕微鏡である.そこで,結晶格子間隔そのものをスケールとし,STMを検出器として組み合わせれば,サブnmオーダの分解能をもつリニアケールが製作可能である.本研究ではこのリニアスケールの開発と格子間隔を基準とした数値制御加工機の可能性追求のために以下の事項を試みた. (1) 極低熱膨張ガラスセラミクスを用いたSTMの改良と5μm超比較測長の可能性確認 極低熱膨張ガラスセラミクス(線膨張率0.3×10^<-7>K^<-1>)を構造部材とするSTMを試作・改良したした.内部の温度変動が0.05℃以下なる恒温セルとこのSTMを組み合わせ,5μm超の原子像を取得することに成功し,このレベルまで結晶格子間隔を基準とする比較測長が可能なことを確認した. (2) 広範囲精密XYステージ駆動法の開発 数μmにわたって原子分解能を保持できるXYステージの駆動法を開発した.全走査領域を200個以上の微調走査領域に分けさらにその微調走査領域を50000点に分割し,全体を10^7点に分割し,全領域で原子像を確認した. (3) STM探針の結晶表面の原子配列を目標とするトラッキング制御の広範囲化STM探針の高速ディザー変調ロックイン同期検波法を用いて結晶格子像のXY軸方向の傾斜信号を得,それを基にSTM探針を特定の原子配列に沿ってトラッキングしながら動かす制御を行った.(2)の方法を組み合わせて,特定の結晶配列に沿ってSTM探針を最大100nmまで往復運動させる制御にも成功した. 以上の実験を基に少なくとも5μmまで結晶格子を基準とする測長と位置決めの可能性を確認した.
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