現用の磁気ディスク装置では、磁気ヘッドを記録媒体上で気体軸受の原理によりごくわずかに浮上させる浮動へッドスライダが用いられ、その浮上すきま量は0.05μm(50nm)程度以下にまで超微小化されている。今後、10〜40Gbit/in^2程度の超高記録密度を実現するためには、数十nm程度の超微小すきまで浮上させる"近接触(Near-contact)方式"が有望視されている。本研究の目的は、超高密度磁気ディスク装置用のヘッド機構実現を目指して、10nm程度の近接触状態(Near-contact state)で相対すべり運動する記録ヘッドの動的挙動(近接触ダイナミクス)を、ミクロ/ナノメータ領域における分子気体あるいは分子液体による力学作用を考慮して詳細に解析しうるシミュレーション基本技術を開発し、これによりヘッド形状設計のための指針を得ることである。 本年度(最終年度)には、本研究を通じて蓄積したモンテカルロ直接シミュレーション法(DSMC法)による浮上特性解析の基本プログラムを用いて、浮上面が任意形状を有する場合、とりわけ規則的な面粗さの場合の発生圧力、速度プロフィール、温度等の解析を行うとともに、粗さ面間の平均圧力流量の算出のための基本検討を行った。さらには、スライダ面に働くせん断力と流れの3次元解析、自由分子流領域における境界値問題の定式化をそれぞれ進め、ナノメータ浮上磁気ヘッドの特性解析の詳細かつ簡便な手法として、その見通しを得た。 本研究の一連の成果は、ますます微小化するコンピュータ用磁気ディスク装置の浮動形磁気ヘッドの特性解析手法として、従来にないナノメータ領域の解析手法として、モンテカルロ直接シミュレーション(DSMC)法を導入しその高度化を図ったことに基づいており、他に類を見ないものである。これにより、従来適用性が必ずしも明確でなかった、流体潤滑解析手法の一般化である分子気体潤滑(MGL)理論による結果が、大局的にDSMC法による数値予測と一致することも明らかとなり、MGL解析とDSMC法の両者における目的による使い分けの重要性が示された。さらには、ナノメータ浮上磁気ヘッド浮上特性解析シミュレータの基本的な構成をほぼ完成し、工学的有用性も高い。
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