本研究の目的は、高速原子線による除去・成膜・改質を、被加工物の任意の表面に集中して行う加工機、すなわち、ナノ・ファブリケーション・センタを開発することである。これを用いると、直径10μm程度の場所に深さ0.1μm以下の凹凸を有する微細局部構造を、3次元全体構造の任意の表面に作り込むことができる。なお、高速原子線は、直進性が優れる高速中性原子ビームである。 平成8年度では、ナノ・ファブリケーション・センタを設計・製作した。これは、真空度が10^<-7>Torrで一辺約400mmの立方形の真空容器中に、ペンシル形高速原子線源、マスク微動装置、小形集動マニピュレータ、などを配した装置である。ペンシル形高速原子線源は直径10mm、長さ80mmのガラス管から成り、両端と中心に輪状の電極が接着されている。ガスの流入端側の電極と中心の電極とには約30Wの高周波交流電圧が印加され、ガラス管内にプラズマが発生する。また、流出端側と流入端側の電極には、約3kVの直流電圧が印加され、プラズマ内のイオンが加速される。流入端側には、接地されている孔の明いたカーボン電極が付いており、ここでイオンは中性になる。たとえば、ガスをアルゴンにして高速原子線を流入端出口においた銅箔のターゲットに当てて、スパッタリングさせたところ、10nm/minの速度で銅が成膜できた。また、直径50μmのマスクをターゲットと被加工物との間において、幅100μmの微小力センサの側面に配線を描くことができた。マスク微動装置や小形集動マニピュレータはそれぞれ並進3自由度、回転1自由度を有するものであり、各モータを真空装置外から操作できる。 さらに次年度では、微細線を加熱して蒸発させ、成膜速度を1μm/minと大きくしたペンシル形高速原子線源や、ラジカルを微細な拡散接合予定面だけに当てるラジカル源、などを設計・試作する。
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