本研究の目的は、高速原子線による除去・成膜・改質を、被加工物の表面に集中して行う加工機、すなわち、ナノ・ファブリケーション・センタを開発することである。これを用いると、直径10μm程度の場所に深さ0.1μm以下の凹凸を有する微細局部構造を3次元全体構造の任意の表面に作り込むことができる。なお、高速原子線は、直進性が優れる高速中性原子ビームである。 まず、ナノ・ファブリケーション・センタを設計・製作した。これは、真空度が10^<-7>Torrで一辺約400mmの立方形の真空容器内に、ペンシル形高速原子線源、マスク微動装置、小形集動マニピュレータ、などを配した装置である。ペンシル形高速原子線源は直径10mm、長さ80mmのガラス管から成り、両端と中心に輪状の電極が接着されている。ガスの流入端側の電極と中心の電極とには約30Wの高周波交流電圧が印加され、ガス管内にプラズマが発生する。また、流出端側と流入端側の電極には、約3kVの直流電圧が印加され、プラズマ内のイオンが加速される。流入端側には、接地されている孔のあいたカーボン電極が付いており、ここでイオンは中性になる。たとえば、ガスをアルゴンにして高速原子線を流入端出口においた銅箔のターゲットに当てて、スパッタリングさせたところ、10nm/minの速度で銅が成膜できた。また、直径50μmのマスクをターゲットと被加工物との間において、幅100μmの微小力センサの側面に配線を描くことができた。マスク微動装置や小形集動マニピュレータはそれぞれ並進3自由度、回転1自由度を有するものであり、各モータを真空装置外から操作できる。 さらにここでは蒸着用の発熱体をガラス管に入れて亜鉛箔を蒸発させ、亜鉛ガスをアルゴンの高速原子線で押し出し、、直径0.1μmのクラスタが堆積したような亜鉛膜を被加工物上に成膜できた。またペンシル形の出力1.6Wの半導体レーザを用いて、直径100μmの錫・銀半田ボールを1Torr以上の真空中で溶かして、ステンレスや金の微細構造物の半田付けを行ったが、この半導体レーザを用いて成膜した亜鉛膜の再溶融を試みた。これらの試みから、微細な被加工物を中心にペンシル形の工具を配して、さらに超微細な形状を除去・成膜・改質できることがわかった。
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