現在、脳型情報処理システムの実現に関する研究が、世界中で活発化している。未だ、「脳型情報処理システム」の定義は存在しない。しかし、予測される将来の脳型システムは、少なくとも、フォン・ノイマン型の従来型情報処理装置とは相補的な関係になると考えられる。もう少し具体的に述べるならば、脳型情報処理に期待される最も大きな特徴は、高並列アーキテクチャによって実現される分散的かつ柔軟な情報処理動作にある。換言すれば、将来の究極的な脳型情報処理システムを実現するためには、チューリングマシンの原理によらない、ハードウエア的にも高並列動作が可能で柔軟な情報処理システムを開発することが不可欠である。 本研究は、波動場、特に光波や電磁波を用いることによりニューラルネットワークを実現し、そのような柔軟な高並列情報処理システムを構築することを最終的に目指した研究である。コヒーレント型ニューラルネットワークは、研究代表者が1992年に提案した複素ニューラルネットワークを発展させたものである。そして本研究は、光波(あるいは電磁波、電子波など)の振幅のみならず位相をも扱うニューラルネットワークの動的理論を構築し、また、ネットワークのプロトタイプを構成するのに必要なサブシステムをハードウエアとして実現することを目標としている。 本科学研究費補助金による2年間の研究によって、動的不安定性の発生機構の解明、不安定性を抑制する学習方式の提案と実証を行った。また、電磁波動と複素ニューラルネットワーク情報処理との連係を明かにするための、適応的な複素振幅情報処理型レーダシステムの構築も進め、基礎的な部分については実現が完了した。このように、基礎的かつ応用性の高い成果をあげることができ、上記の目的をほぼ達成することができたと考えている。今後、さらに本格的なコヒーレント型ニューラルネットワークの実現を目指して、本研究の延長にある理論的・実験的な次段階の研究を推進したいと考えている
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