初年度には、先ず衛星データ受信のためのハードウェア、およびその一次処理のためのソフトウェアが整備された これをベースとして、さらに赤外線画像から得られる雲の表面温度分布を巨視的に把握・図化し、統計解析を行うプログラムを作成し、組み込んだ。このシステムはバングラデシュ、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンの各国を解析対象地域としているが、容易にひまわり衛星の画角内の任意地域に拡張することができる。 ガンジス河流域全般という広域的な水文研究に向けては、経緯度各1゚程度の正方形のフレーム毎に基準温度215゚K以下を示すピクセルの比率(FC)を取り出して、有意な雲の指標するのが適切であるとの結論を得た。当該地域のFC分布に立脚して、短期的ならびに長期的な広域気象解析を試行した。 1996年5月にバングラデシュを襲った竜巻の追跡に際しては、ある程度の成果を得たものの、この種の短期的な現象の解析における時間的分解能の不十分さが指摘された。併せて、その最盛期には竜巻の南西側に顕著なFCの勾配を検出した。 1996年モンスーン期(5月〜9月)のバングラデシュ縁辺のFCデータを総合的に解析したところ、24時間周期でかなり規則的に繰り返される雲域の消長を検出し、疑似ベクトル分布の形で的確に表現することができた。これは、モンスーン期の降雨機構、および降雨量の巨視的把握に結びつく技術として注目される。 既存の地形、降雨、出水に関するデータは集積したものの、とりわけ水文資料については、質・量ともに不十分と言わざるを得ない。京都大学防災研究所等の努力によって当該流域の地上データの蓄積状況は改善しつつあり、衛星データの蓄積も軌道に乗ったことから、数年後には両者を量的に関連づける作業が可能となろう。
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