研究概要 |
本年度は前年度までに開発した高温破壊試験装置を用い,代表的な構造用セラミックスである多結晶アルミナとそれを炭化ケイ素ウィスカーで強化した複合材料の曲げ強度及び破壊エネルギーを室温から高温迄測定した.曲げ強度は3mm×4mm断面の角柱状試験片に対し内スパン10mm,外スパン30mmの4点曲げ破壊試験を行う事で評価し,破壊エネルギーは中央にシェブロン切欠きが導入された試験片をスパン30mmの3点曲げ破壊試験して評価した.室温から1200℃迄の温度範囲では両材料とも顕著な塑性変形が認められなかったので,線形破壊力学に基づいてデータを解析した.多結晶アルミナの破壊エネルギーはこの温度範囲では顕著に変化しなかった(約20J/m^2)のに対して,複合材料の破壊エネルギーは室温で約50J/m^2であったものが温度上昇と共に増加し,1100℃で最大120J/m^2に達する事が分った.これは炭化ケイ素とアルミナの熱膨張係数差に起因する残留熱応力が高温で緩和され,破断せずに亀裂面を架橋するウィスカーの本数及びその引抜け長さが増大する事が原因として考えられ,その妥当性が破面観察及びウィスカーの亀裂面架橋過程をモデル化した計算によって裏付ける事ができた.一方,多結晶アルミナの曲げ強度は室温から1000℃まで約450MPaであったものが1200℃以上で温度上昇と共に徐々に減少したのに対して,複合材料の曲げ強度は室温で約400MPaであったものが1000℃で急に300MPaまで減少した.両材料とも1200℃以下の温度では亀裂面の癒着による強度回復が生じない事,及び顕著な塑性変形が認められない事を考え合わせると,上記の曲げ強度変化は亀裂進展抵抗の変化に対応している事が示唆された.つまり,室温で潜在亀裂を架橋していたウィスカー周囲の残留熱応力が高温下で緩和され,亀裂面閉口応力が減少した事が強度低下の原因である事が分った.
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