研究概要 |
本研究は、不斉源として光学活性配位剤を用いる不斉リチオ化によりエナンチオ選択的にカルボアニオンを発生させ、これにより種々の不斉炭素-炭素結合生成反応を行うことを目的とするものである。まず始めに、本研究の成否の鍵となる不斉配位剤の選択と基質の分子設計について種々検討した。その結果、不斉配位剤として(-)-スパルテインもしくは(S,S)-ビスオキサゾリンを、塩基としてブチルリチウムを組合わせて用いることにより多様な系の不斉リチオ化を高エナンチオ選択的に行えることを見出した。 実際にはアルキルカ-バメートにスパルテイン/S-BuLiを作用させ、生じたα-オキシアルキルリチウムを求電子剤で捕捉することにより、種々の光学活性化合物の合成を行った。特に、Bu_3SnClとの反応により(S)-アルコキシスタナンを光学的に純粋に合成することに成功した。なお、同様な反応を(S,S)-ビスオキサゾリンを用い行うことにより(R)-体を得ることもできる。また、ベンジルメチルエーテルにビスオキサゾリン/t-BuLiを作用させ生じたベンジルリチウムを二酸化炭素で捕捉することによりα-アルコキシフェニル酢酸を最高82%eeの光学純度で得ることに成功した。 さらに本手法に基づくエナンチオ選択的カルボアニオン環化反応[2,3]-Wittig転位および[1,2]-Wittig転位の開発を検討した。 その結果、3-ブテニルエーテル系のカルボアニオン環化については(-)-スパルテインとS-BuLiを組合せ用いることにより完璧なエナンチオ制御を達成できることを見出した。一方、[2,3]-Wittig転位や[1,2]-Wittig転位に関しては、(-)-スパルテインでは低いエナンチオ選択性しか得られなかったが、(s)-バリノール由来の光学活性ビスオキサゾリンとs-もしくはt-BuLiを組合せ用いた場合に最高のエナンチオ選択性が発現することが分かった。 本研究では、既存のカルボアニオン型炭素-炭素結合生成反応に不斉配位剤を加えるのみで光学活性な反応生成物を簡便に得ることができ、また、用いたキラル配位剤は回収、再利用することができることから「効率的なキラルテクノロジー」を開発したことになり、早期に実用化が可能となると考えている。
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