研究概要 |
新規有機材料創製の手段の一つとして、工業的にも容易に合成可能な新しい型のモノマーの創製が求められている。一方、我々は1976年以来、ほとんど未開拓であったルテニウム錯体を用いる接触的炭素骨格形成反応に注目し、検討を重ねてきたが、最近、ノルボルナジエン(NBD)の骨格変換を伴う新規な二量化反応を見い出した。生成物は五つの五員環からなる新しい篭型の化合物,Pentacyclo[6.6.0.0^<2,6>.0^<3,13>.0^<10,14>]tetradeca-4,11-diene(PCTD),であり、出発物質であるNBDの骨格を持たず、炭素-炭素結合が少なくとも二回は切断された後、再構築反応により生成すると考えられる。本年度は、まず1)PCTDの大量合成法の確立、2)PCTDのジエン部分への官能基導入による新しい篭型分子群の創製、3)速度論的考察によるPCTDの生成機構に関する検討を行った。 1)PCTDの大量合成法の確立:従来、Ru(cod)(cot)-N,N-Dimethylacrylamide触媒系を用い、80℃、10時間の反応により、収率85%でPCTDを得ていたが、その後の研究によりRu(cod)(cot)-Dimethyl Maleate触媒系を用いると、40℃、1時間で反応は完結し、収率94%でPCTDが得られることが明らかとなった。本反応条件下では、PCTDの大量合成が可能であり、20gスケールでのPCTDの合成が可能となった。 2)PCTDのジエン部分への官能基導入による新しい篭型分子群の創製:PCTDのジヒドロキシル化、ジエポキシ化を検討し、PCTDのジエン部分への官能基導入によるジオール、ジエポキシド等の新しい篭型分子群の創製を行った。 3)速度論的考察によるPCTDの生成機構に関する検討:Ru(cod)(cot)-N,N-Dimethylacrylamide触媒系を用いるNBDの二量化反応によるPCTD合成について、速度論的考察を行った結果、PCTDの生成速度式は、d[PCTD]/dt=k_<obsd>[Ru]^1[N,N-Dimethylacrylamide]^2[NBD]^3であり、本反応はendo-endoでNBDが二量化した(アルキル)Ru中間体に、さらにもう一分子のNBDが配位した中間体を経て進行していると考えられる。N,N-Dimethylacrylamideは、H-[Ru]種の生成、およびπ-酸として還元的脱離反応を促進していると考えられる。
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