研究概要 |
新規有機材料創製の手段の一つとして、工業的にも容易に合成可能な新しい型のモノマーの創製が求められている。我々は1976年以来、ほとんど未開拓であったルテニウム錯体を用いる接触的炭素骨格形成反応に注目し、検討を重ねてきたが、最近、ノルボルナジエン(NBD)の骨格変換を伴う新規な二量化反応を見い出した。生成物は五つの五員環からなる新しい篭型の化合物,Pentacyc10[6.6.0.0^<2.6>.0^<3.13>.0^<10.14>]tetradeca-4,11-diene(PCTD),であり、出発物質であるNBDの骨格を持たず、炭素-炭素結合が少なくとも二回は切断された後、炭素骨格再構築反応により生成すると考えられる。本年度は、1)PCTDのジエン部分への官能基導入、特に酸化反応による新しい篭型分子群の創製、2)高効率・高選択的PCTD合成触媒としての新規ルテニウム錯体の合成およびその反応性を検討し、以下の成果を得た。 1) PCTDのジエン部分への官能基導入による新しい篭型分子群の創製:PCTDの二つの二重結合の酸化反応による官能基の導入について検討した結果、MeReO_3触媒/30%H_2O_2 aq.を用いた酸化反応では、exo-ジエポキシ化物が収率90%で、OsO触媒/4-メチルモルホリン-N-オキシドを用いた酸化反応では、exo-テトラヒドロキシル化物が収率65%で、さらにRuCl_3・3H_2O触媒/NaIO_4による酸化反応では、PCTDの二重結合の切断を伴い、二つのラクトン環を有するトリシクロデカンカルポン酸が収率31%で得られることを明らかにした。 2) PCTDの高効率・高選択的合成を可能とした新規ルテニウム触媒の創製:新規0価5配位ルテニウム錯体Ru(cot)(dmfm)_2[cot=1,3,5-cyclooctatriene,dmfm=dimethyl fumarate]の合成およびその単結晶X線構造解析に成功した。本錯体の触媒活性を検討した結果、NBDの新規二量化反応によるPCTD合成に極めて高い触媒活性を示し、反応温度40℃という穏和な条件下、反応は1時間で完結し、PCTDが収率96%で高選択的に得られた。本錯体は、多様な配位子交換反応が可能であり、本錯体を出発原料とするホスフィン配位あるいはアミン配位新規0価ルテニウム錯体の合成に成功した。
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