研究概要 |
新規有機材料創製の手段の一つとして、工業的にも容易に合成可能な新しい型のモノマーの創製が求められている。我々は1976年以来、ほとんど未開拓であったルテニウム錯体を用いる接触的炭素骨格形成反応に注目し、検討を重ねてきたが、最近、ノルボルナジエン(NBD)の骨格変換を伴う新規な二量化反応を見い出した。生成物は5つの五員環からなる新しい篭型の化合物、pentacyclo[6.6.0.0^<2,6>.0^<3,13>.0^<10,14>]-tetradeca-4,11-diene(PCTD),であり、出発物質であるNBDの骨格を持たず、炭素―炭素結合が少なくとも二回は切断された後、炭素骨格再構築反応により生成すると考えられる。本研究では、1)PCTDの反応性の解明、および新規篭型分子群創製のためのPCTDの大量合成法の確立、2)PCTDの構造およびジエン部分の反応性を解明するためのPCTD配位金属錯体の合成、3)PCTDのジエン部分への官能基導入、特に酸化反応による新しい篭型分子群の創製、4)速度論的考察によるPCTDの生成機構について検討を行い、以下の成果を得た。1)PCTDを反応温度40℃、反応時間1時間という極めて穏和な条件下、20gスケールで合成可能な新触媒系、Ru(cod)(cot)[cod=1,5-シクロオクタジエン、cot=1,3,5-シクロオクタトリエン]/ジメチルフマレート触媒系、の開発に成功した。2)PCTDとAgOTfとの反応により層状ポリマー構造を有する[AgOTf(PCTD)]_nの合成、およびその単結晶X線構造解析に成功した。3)PCTDの二つの二重結合の酸化反応により、PCTD由来のexo-ジエポキシ化物、exo-テトラヒドロキシル化物、およびPCTDの二重結合の切断を伴い、二つのラクトン環を有するトリシクロデカンカルボン酸誘導体の合成等、新規篭型分子群を創製した。4)Ru(cod)(cot)/N,N-ジメチルアクリルアミド触媒系を用いるNBDの二重化反応について、速度論的考察を行った結果、PCTDの生成速度式は、d[PCTD]dt=k_<obsd>[Ru]^1[N,N-ジメチルアクリルアミド]^2[NBD]^3で表わされることが明らかとなった、この結果は、本反応がendo-endoでNBDが二重化した(アルキル)Ru中間体に、さらにもう一分子のNBDが配位した中間体を経て進行していることを示している。
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