研究概要 |
研究代表者である杉本は、2年前にTCNQあるいはテトラフルオロ置換TCNQ(TCNQF_4)とTCNQF_4のラジカルアニオンとの新規1:2混合塩が、室温下で強磁性的挙動を示すことを見い出した(Chem.Phys.Lett.,249,304-308(1996))。さらに、TCNQとそのラジカルアニオンとの1:2混合塩においてもまた、同様な室温強磁性的挙動が認められた(Chem.Phys.Lett.,261,295-300(1996))。従来の純有機の強磁性体のスピン整列温度が最高で36Kであることを考えると、これらの1:2混合塩のスピン整列温度が室温に近いことは極めて驚くべきことである。残念なことに、これらの1:2混合塩の与える飽和磁化は1組成式当たりS=1/2より期待される値の約0.1%程度である。本年度では、TCNQとそのラジカルアニオンとの1:2混合塩の示す室温強磁性的挙動の発現機構を、偏光吸収スペクトル測定により解明の糸口を見い出した。さらに、2、5-ジメチル置換TCNQとそのラジカルアニオンとの1:2混合塩が室温強磁性的挙動に加え、金属様の高い電気伝導性を示すことを見い出した(Chem.Phys.Lett.,印刷中)。従って、この1:2混合塩は見かけ上鉄、コバルトやニッケル等の強磁性金属の有機類縁体と見なすことができる。しかし、室温強磁性的挙動/金属様高電気伝導性の発現と結晶構造との関係、両物性同時発現の機構、そして局在πスピンと伝導性π電子との相互作用の様子等については、未解決の課題として残っている。
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