Heckカルボニル化反応は合成化学上有用な増炭反応の一つとして知られているが、一般に有機ハライド類を基質に用いることから、反応副生成物としてハライド塩が得られてくるという問題点がある。この解決策の一つとして、アルコール類からカルボニル化反応により、直接カルボニル酸に導く触媒反応を開発した。 パラジウム触媒によるアリルアルコール類のカルボニル化反応を二酸化炭素雰囲気下で試みたところ、反応の加速効果が観測され、不飽和カルボン酸をアルコールから一段階で合成できることを見い出した。この反応のキ-ステップは、アルコールの炭素-酸素結合の切断であり、これが二酸化炭素のような酸の存在により、促進されたものと考えられる。同じように、ベンジルアルコール類を基質としたカルボニル化反応も、ヨウ化水素酸存在下で対応するカルボン酸が得られることを見い出した。 一方、一酸化炭素下における、オレフィン類の触媒的ヒドロエステル化反応はこれまで多くの報告例があるが、これらの反応系では、酸化剤を必要としたり、プロトン酸を添加しなければならない場合がほとんどである。パラジウム触媒、一酸化炭素-エチレン混合ガス下で、有機酸であるプロピオン酸などのカルボン酸や、フェノール類を基質として用いると、それぞれ対応する酸無水物やプロピオン酸フェニルが得られることを見い出した。また、フェノールを用いる場合はエチレンと一酸化炭素が交互にフェノールに取り込まれた生成物である、4-オキソヘキサン酸フェニルや、エチレンと一酸化炭素の交互共重合体が生成した。
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