研究概要 |
動物細胞において2,5-oligoadenylate synthetase(2,5-AS)はATPから2,5-oligoadenylic acid [pppA(2p5A)n]を形成する。2,5-AS遺伝子を導入した形質転換体植物(タバコ)では2,5-oligoadenylic acidの生成は認められなかった。この場合2.5-AS遺伝子発現そのものにも問題があった。しかしこの形質転換体ではキュウリモザイクウイルスやタバコモザイクウイルスによるウイルス病そして菌類病である立枯病(Rhizoctonia solani)やうどんこ病(Erysiphe cichoracearum)に対し抵抗性を示した。菌類病に対する抵抗性はリン酸(カリウム塩)で処理することにより増高した。リン酸処理により細胞壁が無処理のものに比べ肥厚した。これは以上の病原菌に対し侵入抑制に働くことを示唆している。2,5-ASによる形質転換体ではこのような形態変化のほかにリボヌクレアーゼ(R Nase)活性がコントロールより高く、リン酸処理によりさらに増大することが認められた。R Naseの増高もウイルスおよび菌類に対する抵抗性の高揚に関係したと考えられる。インターフェロンにより動物細胞で生成するcyclic AMP非依存性タンパク質リン酸化酵素の遺伝子を導入した形質転換体では本遺伝子の発現は抑制されたが、この形質転換体ではATP含量の増加がみられ、非形質転換体に比べ立枯病、うどんこ病に対して抵抗性が示された。以上のように植物の病害抵抗性にリン酸代謝が密接に関係していることがわかり、リン酸代謝をターゲットした抵抗性植物作出の可能性が示唆されたがその機構の詳細についてはさらなる研究が必要である。一方、以上の形質転換タバコはタバコ野火病菌(細菌、Pseudomonas syringae pv.tabaci)による病斑形成を抑制することは認められなかった。この病斑は細菌の生産する毒素(tabtoxin)によるものであり、細菌の増殖量に対する影響は定かではなかった。細菌病についてはほかの細菌を用いることを含め、今後再検討したい。
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