本研究は、吸着膜を塗布した水晶振動子の発振周波数がにおい物質の付着状態によって微小変化することを利用した微粒子検知システム(におい識別システム)の開発を目的としている。 はじめに、基本的ハードウェア(測定系)の構築を試み、4つの水晶振動子吸着膜センサ・セルを使ったシステムを製作した。本システムはにおい試料を気化することによって、(1)定常状態までに時間がかかる、(2)微量の試料に対して認識が困難であるという、水晶振動子を用いたこの種のにおい識別システムにおける欠点を補うことを特徴としているが、数十秒から十数分程度の時間で周波数変化パターン・データの取り込みを終了することができた。また、測定系の改良を行い、水晶振動子セルを4チャネルから6チャネルに増やした。 合成二分子膜の17種類について検討し、11種類がにおい分子吸着膜物質として使用可能であることを確認した.そして、それぞれについて、吸着膜を形成するのに最適な塗布量を明らかにした. さらに、ニューロ・アルゴリズムを使ったにおい識別プログラムを作成した.これは、周波数変化パターンの傾きのみを情報量として識別を行うという簡単なものであるが、学習した結果、80%以上の認識率が得られた.また、各センサ・セルの最大周波数変化だけでなく、各センサ・セルの周波数変化をパターン認識することが、においの識別に有効であることが明らかになった。 そして、地場産業の一つである柑橘果実類(ゆず、ライム、土佐ぶんたん、ポンカン、夏みかんなど、16種類)のにおい物質に対する水晶振動子吸着膜の周波数変化を記録した。その結果、周波数変化パターンには再現性が見られること、また柑橘類の種類によって特徴のあるパターンを示すことが明らかにした。
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