研究概要 |
前年度までに、魚類の免疫強化剤のモデルとして用いたβ-1,3-グルカンは、補体第2経路を強く活性化すること、頭腎白血球上の補体C3レセプター発現量を増加させることを解明し、これによる貧食活性の上昇が感染防御の亢進に重要な役割を果たすことを明らかにした。本年度は、褐藻由来のアルギン酸ナトリウムにも感染防御効果が認められたので、この作用機構の解明を試みた。注目すべきことに、アルギン酸ナトリウムは補体を活性化せず、またこれを腹腔内投与しても食細胞の貧食活性および殺菌活性を全く上昇させず、代わりに、多数の白血球が頭腎から腹腔内に遊走してきた。これは、アルギン酸ナトリウムが腹腔内の常在細胞を刺激して走化性因子を放出させたことを示唆している。すなわち、同じ多糖類の免疫強化剤でもその作用機構には大きな多様性が存在することが明らかとなった。したがって、免疫強化剤の効果を迅速に判定するためのin vitro試験にも、補体活性化能、C3レセプター発現量、走化性因子の産生量など多様なものが求められる。補体活性化能については、補体C3の活性化フラグメントであるC3aをウエスタンブロッティングで検出する方法を開発した。また、C3レセプター発現量については、従来のロゼット法よりも定量性に優れたフローサイトメトリーによる方法を確立した。ただし、これらの方法は現在のところコイにのみ適用可能である。走化性因子などのサイトカインについては、これまで魚類ではほとんど同定が進んでおらず、再現性のあるアッセイ法の開発が困難であった。そこで本研究では、遺伝子の発現パターンによる免疫強化剤の作用機構の推定法にも着手した。この方法の確立は今後の問題であるが、現在のところ、免疫強化剤の投与によって発現が上昇する5〜6種の生体防御関連遺伝子が同定されており、このアプローチの妥当性が証明された。
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