本研究の目的は、本来感染防御のために接種されるワクチンによって誘導されるウイルス特異的細胞障害T細胞(CTL)を腫瘍の免疫療法に利用できないか検討することである。すなわち、宿主が認識するウイルス抗原エピトープを腫瘍に導入し、腫瘍に抗ウイルスCTLを働かせ、その結果起こる免疫反応により内在性腫瘍抗原を顕在化し抗腫瘍免疫応答の増強することができるか検討することである。本研究では、これらのことを検証するモデルとしてC57BL/6(B6)マウスのマウス肝炎ウイルス(MHV)感染を用いた。腫瘍はB16メラノーマなどを用いた。B6マウスにMHV、JHM株(JHMV)を免疫し、4週間後B6マウスの皮下に2×10^6個の腫瘍細胞を接種した。さらに2週間後、腫瘍の直径が5〜10mmになったところで、腫瘍内にJHMV、合成ウイルスペプチドあるいはPBSを注射し、2週間後のマウスの生死を比較した。その結果、感染性ウイルスはういはウイルス抗原ペプチドを腫瘍内に注射しても、マウスの延命には効果がなかった。次に、JHMVで免疫されたB6マウスあるいは非感染のB6マウスに腫瘍細胞を用いて腫瘍ワクチンを行い、同腫瘍の攻撃に対するマウスの生死を比較した。その結果、ウイルス感染腫瘍細胞でワクチンした非感染マウスの生存日数の延命が認められた。しかしながら、ウイルス抗原ペプチドを導入した腫瘍細胞でワクチンした非感染マウスでは延命効果は認められなかった。これらの結果より、B16メラノーマではウイルス特異的CTLによる抗腫瘍免疫の増強は認められなかった。本研究の方法は他の腫瘍細胞の系で確かめてみる必要がある。
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