研究概要 |
1.エゾヒグマの精液採取、精子の凍結保存および胚の回収に関する成果(1)飼育下のエゾヒグマにおける電気刺激射精法による精液採取に成功した。精液量、精子濃度、精子運動性および精子奇形率などの精液性状を明らかにした。(2)エゾヒグマ精子の凍結保存を試み、ウシ精子の凍結保存用精液希釈液を用いる場合に適したグリセリンの濃度や平衡時間および冷却速度などの条件を確立した。その結果、凍結融解精液の精子運動性および生存精子の割合は、36.0%および65.0%であった。(3)精液性状と血清テストステロンおよび卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度の周年変化を調べた結果、テストステロン濃度の上昇に引き続いて精子濃度は上昇し、また、血清FSH濃度と精巣容量の変化は類似したパターンを示した。 2.遺伝的変異の検討に関する成果(1)北海道環境科学研究センターにおいて、約300個体のDNAサンプル(肝臓)が回収された。(2)現在、多型を含む有効なマイクロサテライト領域に対するプライマーの作製には至らず、引き続きマイクロサテライト領域の検出を進めている。一方、別種のクマに対して開発された既存のマイクロサテライト領域に対するPCR用プライマーを用いて、多型の検出に成功し、54頭の飼育下のヒグマへの応用を試みた。その結果、8つのマイクロサテライト領域において4から10(平均6.5±1.9)の対立遺伝子を確認,平均遺伝子多様度0.67±0.12という数値が得られた。これは、別種のクマに対して得られた数値と似通っており、これらのプライマーは,北海道のヒグマの遺伝的多様性の評価に有効であると考えられる。現在、北海道環境科学研究センターにて収集したサンプルの分析を行い,地域による遺伝的変異の評価を行っている。(3)上記の既存のプライマーを用いて本州のツキノワグマの分析も進めている。この中には,遺伝的多様性の低下が懸念されている丹沢山地の個体群も含まれており、本研究の結果が期待されている。
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