本研究の目標は生きた細胞の機能の分子レベルにおける可視化である。このことを試験するために、マイクロレンズを付けたニプコーディスク走査型共焦点顕微鏡法とエバネッセンス顕微鏡法の2つの光学イメージングの方法の応用を試みた。これによって、クロマフィン細胞のカテコールアミンの開口放出の過程と、カエル卵に発現させたKチャネルのゲート機構の活動を2次元のイメージとして動的に観察することに成功した。 クロマフィン細胞のカテコル-アミンの開口放出については、あらかじめキナクリン分子を細胞内の分泌顆粒にロードし、これが細胞外へ拡散し消失するのを共焦点顕微鏡下にリアルタイムに捉えることができた。この結果、これまで教科書的に信じられてきた開口放出の量子的な反応は実は正しくなく、開口そのものは量子的であっても顆粒内容の一部は放出されることなく顆粒に留まり、開口した顆粒はそのまま口を閉じて細胞内に戻っていくのが明らかになり、顆粒の新たなリサイクルの過程があることが証明された。 KチャネルのmRNAの351番目のアミノ酸をシスティンに変異させてから、これをカエル卵に注入し、発現したKチャネルにロダミン・マレイマイドを共有結合させて、膜電位固定条件下にエバネッセント光による観察をおこなった。細胞膜上にほぼ量子的な蛍光退色を示す分子像が観察でき、50%以上の大きさの蛍光信号を発してゲート動作をするところが捉えられた。生きた細胞において一分子のイメージングに成功したのは、世界で初めてのことである。
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