研究概要 |
環境汚染や薬剤使用時に生体への影響が問題となる毒性物質や癌原性物質の代謝経路は,ヒトと動物では異なる。現在は,これらの代謝検定は動物実験をもとに,ヒトへ外挿されているのが実情である。動物愛護の見地からも,よりヒトに近い代謝経路での研究が必要となっている。申請者らの樹立したヒト肝由来細胞は,ラジアルフロー型バイオリアクター(RAD)で高密度三次元培養することにより,単層培養と比較して,高アルブミン産生を有するだけでなく、アンモニア,薬物など毒性物質の解毒能をも保持している。肝における毒物代謝経路で律速段階となる酸化系酵素チトクロームP450(CYP)の分子種ごとの活性では,ヒト肝由来細胞株にヒトと同様のCYP分子種の1A,3Aなどに活性が認められた。また,加水分解系酵素のカルボキシルエステラーゼ活性と,ヒトと同様の分子種も確認された。アンモニア負荷実験では,代謝産物である尿素の上昇と,尿素サイクルの中間代謝産物であるシトルリンの上昇が認められた。ヒト生体肝の解毒シミュレーションとして,ナファモスタット,アンチピリン,アンモニアをRADシステムへ負荷した結果,これらが代謝されることを認めた。また,変異原性物質を用いた小核試験では,ヒト肝由来細胞において,変異原性物質の検定に有効であることが確認された。この結果,ヒト生体肝に近い実験モデルとして,ヒト肝由来細胞を用いたRADシステムは,環境汚染物質や毒性化学物質,薬剤の生体への影響,変異原性物質の代謝系の検定などに有用と思われた。
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