1、促進性シナプス入力遮断による虚血性海馬障害の防御: 中隔破壊のうち、海馬に入力している内側中隔部の破壊は前脳虚血による海馬CA1神経細胞障害に対して保護効果を示したが、海馬から出力をうける外側中隔部の破壊はこの保護効果を全く示さなかった。この虚血性海馬障害に対する内側中隔破壊の特異的保護効果から、内側中隔破壊は海馬に促進的に作用する内側中隔-海馬入力系の遮断によって虚血時海馬内異常興奮の発生に抑制的に作用し、海馬神経細胞死を防御したと考えられる。この結果から、海馬への促進性のシナプス入力遮断の実現は虚血性海馬神経細胞障害を防御できることが明らかになり、伝達物質放出の制御機能分子に対するアンチセンスDNA投与による虚血脳保護法の開発は理論的根拠をえたものと結論される。 2、シナプシンIのアンチセンスDNA脳室内投与による虚血性海馬障害の変化: シナプス入力の遮断による虚血脳保護効果を、伝達物質の放出を制御しているシナプシンIの生合成をアンチセンスDNA投与によりブロックすることで実現することを試みた。DNAを脳へ導入する際には、細胞融合能を持たせたリポソームにDNAを封入して効率よく細胞内へ導入する方法を用いた。脳虚血負荷の4日前に脳室内へシナプシンIのアンチセンスDNAを投与したラットでは、無処置のラットよりも脳虚血による海馬CA1神経細胞障害が著しく亢進増悪を示した。シナプシンIの機能は、伝達物質の放出に対して促進的なものと抑制的なものの両方が報告されているが、この虚血性脳障害に対する増悪効果は、アンチセンスDNAによるシナプシンI発現ブロックが伝達物質放出抑制を解除したことにより興奮性伝達物質放出を促進し、海馬CA1神経細胞障害を亢進させたと考えられる。この結果より、伝達物質の放出を抑制する蛋白のアンチセンスDNA投与により虚血性脳障害を制御することが可能であると結論される。
|