唾液分泌障害の発症機序とその予防と治療

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08557099
• 研究機関: 徳島大学
• 研究代表者: 石田 甫 徳島大学, 歯学部, 教授 (70028364)
• 研究分担者: TOMASZ S.M. 徳島大学, 歯学部, 助手 (00294702) ; 江口 貴文 徳島大学, 歯学部, 助手 (90263847) ; 石川 康子 徳島大学, 歯学部, 助教授 (40144985)
• キーワード: 唾液分泌障害 / M_3 / β_2受容体 / H_2受容体 / アクアポリン5 / Gi2α / りん酸化レベル / 〔Ca_<2+>〕i

研究概要

近年、高齢者を中心に唾液の分泌障害を訴える患者が急増している。この分泌障害の発症機序は全く不明である。本研究はこの分泌障害の発症機構を細胞膜受容体とこれを介する情報伝達機構を中心に追究し、この障害の予防と治療方法を開発しようとするもので、本年度は下記の成果を得た
1. 耳下線におけるアクアポリン(AQP)水チャネルの局在
哺乳類の細胞で水チャネルを形成するAQPがクローニングされ、水輸送の調節分子として注目を集めている。私共は唾液腺に存在しているAQP5のC末の21個のアミノ酸配列を有するペプチドを合成して、これを用いて特異的な抗AQP5抗体を調製し、耳下線におけるAQP5の局在を調べた。その結果、AQP5は管腔側細胞膜(APM)と細胞内器官膜(ICM)に局在していた。
2. AQP5に及ぼすコリン作用薬の効果とその機序
ラット耳下線をアセチルコリン(ACh)、ピロカルピンやSNI-2011と反応させると、これらの薬物はM_3受容体に作用して、AQP5はICMとAPM間を転置した。AQP5のICMからAPMへの転置はネオマイシン、ダントロレンあるいはTMB-8によって阻止された。しかし、スタウロスポリンやH-7によっては全く阻止されなかった。したがって、耳下腺細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]i)の上昇によってAQP5はICMからAPMへ転置されることが明らかにされた.
3. AQP5に及ぼすアドレナリン(Ad)作用薬の効果とその機序
ラット耳下腺AQP5はAd作用薬でβ_2受容体ではなく、α_1受容体を刺激することによってもICMとAPM間を転置した。この転置も種々の実験結果の解析から[Ca^<2+>]iの上昇によるものであることが明らかにされた。

研究成果

• [文献書誌] Ichiro Amano: "Regulation of phoshorylation of Gi2α protein controls the secretory response to isoproterenol in rat parotid tissues." Biochimica et Biophsica Acta. 1313. 146-156 (1996)
• [文献書誌] Yasuko Ishikawa: "Mechanism of β-adrenergic agonist-induced transmural transport of glucose in rat small intestine." Biochimica et Biophsica Acta. 1357. 306-318 (1997)
• [文献書誌] Yasuko Ishikawa: "Acetylcholine acts on M_3 muscarinic receptors and induces the translocation of aquaporin5 water channel via cytosolic Ca^<2+> elevation in rat parotid glands." Biochemical and Biophysical Research Communications. 245. 835-840 (1998)
• [文献書誌] Takafumi Eguchi: "Mechaism underlying histamine-induced desensitization of amylase secretion in rat parotid glands." British Journal of Pharmacology. 124. 1523-1533 (1998)
• [文献書誌] Yasuko Ishikawa: "Developmental enhancement of secretory response to isoproterenol coupled with increases in β-adrenoceptor density and Gs protein function in rat parotid tissues." Mechanisms of Ageing and Development. 104. 75-90 (1998)
• [文献書誌] Yasuko Ishikawa: "Persistent increase in the amount of aquaporin-5 in the apical plasma membrane of rat parotid acinar cells induced by the muscarinic receptor agonist SNI-2011." Molecular Pharmacology. (in press). (1999)
• [文献書誌] 石田 甫 (分担): "最新医学大事典 (第2版)" 医歯薬出版株式会社, 2333 (1996)
• [文献書誌] 石田 甫 (編著者): "歯科薬理学 (第4版)" 医歯薬出版株式会社, 541 (1997)