研究概要 |
咬合・咀嚼機能に関与する患者側の因子の一つである神経筋制御能力の客観的評価法を確立するために,まず,下顎運動の巧緻性についての検討を行った.すなわち,正常有歯顎者を被験者として,2Hzの音刺激に対して可及的に同調した下顎タッピング運動を行わせ,下顎運動軌跡と咀嚼筋筋電図を記録し,下顎運動の巧緻性を評価するためのパラメータを検索した.その結果,下顎運動周期時間と側頭筋筋活動周期時間の被験者間におけるバラツキが著しく小さいこと,第1ストロークから第10ストロークまでの周期時間のストロークごとによる変動は小さいことが判明した.さらに.50μmの垂直的咬合干渉を付与した実験用クラウンを装着した被験者の測定結果と正常有歯顎者のそれらとを比較したところ,下顎運動周期時間のバラツキが下顎運動制御能力の評価の一助となり得ることが示唆された. 次に,下顎運動機能,舌運動機能と咀嚼機能との関連について検討した.すなわち,正常有歯顎者を被験者として,習慣性咀嚼側における3gのピーナッツ咀嚼時の下顎運動軌跡,舌運動軌跡および咀嚼効率を測定・記録した.記録に際し,被験者には全部床義歯の舌側床翼を想定した実験床を製作し,本装置の装着前,装着直後,1,3,6,12,24.48時間後の8時点での記録を行った.その結果,実験床装着早期の咀嚼効率は顕著に低下し,実験床の装着時間の経過とともに速やかに回復することを確認した.また,舌の上下的,左右的運動量も咀嚼効率と同様の経時的な推移を辿った.しかし,下顎の上下的,左右的,前後的運動量は咀嚼効率,舌運動ほどの顕著な変化を示さなかった. 以上の結果から,良好な咀嚼機能を営むためには,舌運動と下顎運動の協調性が必要であること,また,客観的咀嚼機能評価法の一つとして,上下的舌運動距離の咀嚼ストロークの進行に伴う変化を表示するパラメータが有効であることが示唆された.
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