研究概要 |
アルキル化剤の一種である3,3-dimethyl-1-phenyltriazine(DMPT),およびサルファ剤に属する2,4-dimethoxy-6-sulfanilamido-1,3-diazone(SDM)は催奇形性を有し、マウス胎仔に小下顎を誘発させる事が報告されている。本研究は、これら2種類の薬物を用いてマウス胎仔に小下顎が発現する様相を観察し、小下顎の発現機構について解析する事を目的とした。まず、奇形発現に関わる臨界期、薬用量について検討し、経時的に胎仔の連続切片を作製して組織学的観察を行った。また、各切片について顎顔面諸器官のトレースを行い、矢状面、水平面における再構築像を作製して胎生期における形態形成の様相を3次元的に把握することにより、それぞれの薬物により誘導される小下顎の発現機構の解析を行った。その結果、両薬物とも上下顎突起の形成期である胎齢10日前後に臨界期が認められ、ともに胎齢15日以降、小下顎の様相が著明となるなど共通した事象も見られたが、小下顎の発現機構については相違が認められた。即ち、DMPTにおいては、鼻中隔軟骨、メッケル軟骨の前方部に形成障害が起こるが、上顎では鼻胞軟骨が上顎前方部の成長を補うのに対して、下顎では短小化したメッケル軟骨に相応して小型の下顎骨が形成されるため、小下顎が発現するものと考えられた。他方、SDM投与では、鼻中隔軟骨、鼻胞軟骨ともに比較的障害が少なかったのに対して、メッケル軟骨前方部における形成障害とS字状屈曲が下顎の前後的成長を強く抑制し、小下顎を発現するように観察された。このように、薬理作用の異なる薬物の投与により、それぞれ胎仔に小下顎が誘導されたが、その発現の機構は異なっていることが明らかとなった。また、小下顎のような顎顔面諸器官の相対的大きさの不調和に基づく奇形の発現機構や異常な成長発育について検索する際には、本研究で用いた手法は極めて有用であることが確認された。
|