研究概要 |
平成9年度は、前年度において確立した手法を用いて、前年度とは異なる催奇形物質を用いて奇形発現の機構について解析を行った。薬物として長時間作用型のサルファ剤の一種である2,4・dimethoxy-6-sulfanilamido-1,3-diazine(SDM)を用いた。予備実験において、胎仔に小下顎を発現刷る臨界期について検索したところ、妊娠10日に投与した場合に最も高頻度で胎仔に小下顎が見られた。そこで妊娠10日のマウス母獣に3,000mg/kgのSDMを経投与し、胎齢11,12,13,14,15および18日で胎仔を摘出して頭部の前頭断連続切片を作製して組織学的観察を行うとともに、顎顔面頭蓋の諸器官のトレースを行って矢状面、水平面の重ね合わせを行い、小下顎が形成される過程を3時限的に観察した。その結果、SDMの効果は比較的マイルドで、投与後組織中に細胞の変性像や死細胞は観察されなず、上顎においては、鼻中隔軟骨、鼻胞軟骨とも、生涯の程度は比較的軽度であった。これに対して、下顎においては、メッケル軟骨の前方部に形成不全が認められ、左右メッケル軟骨が融合する時点において、S字状の屈曲が観察され、これらがメッケル軟骨に相応した小型の下顎骨が形成され、ために小下顎を呈するようになるものと考えられた。実際、正中矢状断切片を用いて胎生期における上顎、下顎の前後径を計測した所、対照群においては、胎齢13日以降成長量が増加し、上顎に追いつくような成長を示すのに対し、SDM投与群では、同時期に下顎の成長の増加は認められず、下顎は小さいままであった。このような、SDMによる小下顎発現の機構は、前年度におこなったDMPTによって誘導される小下顎と異なり、小下顎の発現機構は多様であることが推察された。
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