研究概要 |
すでに我々は、3価のリンであるジエチルホスファイトを脱離基として組み込んだ糖供与体を基盤とするグリコシル化反応(BF_3・OEt_2、-78℃)が、2位の隣接基関与を伴わない系において文献上知られる最も高い立体選択性で1,2-トランス-β-グリコシドを生成することを見いだしている。この反応機構を詳細に検討した結果、BF_3OEt_2により活性化されたアルコールのプロトンが脱離基を引き抜くことにより反応が開始することが宗示唆された。この反応機構から考えると、ヨウ化物イオン存在下グリコシルホスファイトをプロトン酸により活性化すれば系内でヨウ化グリコシルが生成し、Lemieux法の原理に基づいて糖受容体アルコールが反応性の高いβ-ヨウ化グリコシルを背面攻撃してα-グリコシドが生成すると期待された。種々検討した結果、活性化剤としてプロトン源とヨウ化物イオン源を兼ね備えたヨウ化2,6.ジ-tert-ブチルピリジニウム(TBPI)を開発することにより、1,2-シス-α-グリコシドが極めて高い立体選択性で得られることが判明した。更に、本反応系にBu_4NIを添加すると反応時間が大幅に短縮された。この結果は、同一の糖供与体から反応条件を変えることにより、α-及び6-グリコシドを任意につくり分けできることを示す。本法は、1-アダマンタノールのような立体障害の大きな第3級アルコールのみならず、ジギトキシゲニンやチゴゲニンのような酸に特に不安定なカルデノリドアグリコンのα-グリコシドを高収率且つ高立体選択的に与えるという特長を持つ。本法の応用として、癌及び自己免疫疾患を防ぐNKT細胞を特異的に活性化する糖脂質α-ガラクトシルセラミドの効率的合成を達成した。
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