研究概要 |
蛋白質の生体内における代謝部位,速度の解明には,(1)蛋白質の分子内,分子間架橋を誘発することなく(2)血液中でインジウム-111と安定な標識蛋白質を(3)高い比放射能,放射化学的収率で生成し,さらに(4)蛋白質の集積組織において,細胞内に長時間残留する放射性代謝物を与える,キレート試薬の開発により可能となる.本年度の研究では,種々のDTPA誘導体を設計,合成し,上記の(1)から(3)に要件を満たすキレート試薬の検討を行った.その結果,従来,蛋白質の代謝部位の研究に汎用されてきたDTPA無水物は蛋白質の分子内,分子間架橋を誘発し,これが原因で目的とする蛋白質の肝臓,腎臓における代謝を過大評価することを明らかにした.また蛋白質の分子内,分子間架橋を誘発しないMonoreactive DTPAは,DTPA無水物に比べて遙かに高い比放射能,放射化学的純度でインジウム-111標識蛋白質を与えることを認めた.さらに種々のDTPA誘導体についての検討から,DTPA骨格にベンゼン環を導入したベンジル-DTPA誘導体はインジウムとの錯形成反応を損なうことなく,生体内で安定なインジウム錯体を与えることを明らかとし,蛋白質の代謝部位の同定にはベンジルDTPAを基本骨格とすることが適切であることを示した.一方,生体内で安定なインジウム-111錯体を形成するベンジルEDTAを用いた検討から,このキレート蛋白質のリジンεアミノ基に導入した場合,システインのチオール基に導入した場合に比べて肝実質細胞,非実質細胞のリソソーム画分に遙かに長い時間残留することを速度論的検討から明らかとした. 今後,放射性代謝物のリソソーム膜における輸送についての更なる検討を行うとともに,リソソームへの長時間にわたる残留に適した分子量,電荷の放射性代謝物を与える新たなベンジル-DPTA誘導体の開発を行うことで蛋白質の生体内での代謝部位,速度の解明に有用なインジウム-111標識試薬が開発可能と考えられる.
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