肝細胞癌、特に播種性および転移性肝癌の特異的遺伝子治療をめざしたアデノウイルスベクターの開発を行った。まず特異的プロモーターの発現特異性を厳密に発揮させる方法を検討し、プロモーターの上流にSV40由来のpolyA付加配列を配置することが効果的であるとの結果を得た。次に、部位特異的組換え酵素Creを肝癌に働くα-フェトプロテイン(AFP)プロモーターの支配下に、核移行シグナルを付加したCre遺伝子を発現するアデノウイルスである。次にCre酵素により、強力なCAGプロモーターから目的遺伝子(今回はLacZ遺伝子)を発現する「発現標的ウイルス」を作製した。このウイルスは、CAGプロモーター下流のLacZ遺伝子との間にポリA付加シグナルを含むスタッファー配列を介在させてある。このスタッファー配列の両側にあるCre認識配列(IoxP配列)によりCre存在下ではスタッファーが除去され、CAGプロモーターからの強力な発現がオンになる。この二種類のウイルスを同時に肝癌由来HepG2細胞へ感染させると、AFPプロモーターから直接発現させた場合と比較して、約50倍の発現増強がみられた。この際非癌細胞株では発現がほとんどみられず、プロモーターの特異性は保たれていた。またム-ドマウスにヒト由来肝癌細胞HuH7を接種し、播種性肝癌細胞の10-15%に特異的なLacZ遺伝子の発現を認め、正常肝細胞では全く発現を認めなかった。以上より本法は全身的あるいは臓器全体への投与により、播種性および転移性肝癌の将来の遺伝子治療法となる可能性を持っていると考えられた。
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