走査型トンネル顕微鏡(STM)は、大気中で原子一個一個の像を見ることができるという驚異的な性能をもった顕微鏡である。このような特徴からするとSTMは、学生・生徒が原子概念を学習する際の原子実在の直接的な証拠の例示にまたとない教育用機器として使用できるものと考えられるが、STM装置はその市販が始って8年足らずであり、現在ではまだ研究用機器の域を出ていず、その値段も高い(500万〜2000万円程度)。本研究は、教室でも使用できるような、原子概念理解のための簡易な携帯型STM装置を試作・実用化することを目的としている。 STM装置で最も費用のかかる部分は制御・観測部である。本研究ではこの部分を、近年教育現場に導入の進んでいるパーソナルコンピューターで置き換えることによりコストの削減を試みている。本年度は、現有の研究用STM装置をモデルとして、通常アナログ回路で制作されている制御部(XY操作部、フィードバック制御部、信号観測部)などのディジタル化を試みた。これらのうち、XY操作部と信号観測部のディジタル化は比較的容易であったが、フィードバック制御部についてはあらたな制御用アルゴリズムを開発する必要があった。現在はこのようにして制作したディジタル制御回路と現有の研究用STMヘッド部との適合性を検討している。
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