発生工学的手法を用いたマウス肝炎ウイルス抵抗性マウスの作出

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08558089
• 研究種目: 基盤研究(A)
• 応募区分: 試験
• 研究機関: 国立精神・神経センター
• 研究代表者: 田口 文広 国立精神神経センター, 神経研究所, 室長 (30107429)
• 研究分担者: 伊藤 豊志雄 (財)実験動物中央研究所, 室長 (20106644) ; 山田 靖子 国立予防衛生研究所動物管理, 主任研究官 (20158223) ; 八神 健一 筑波大学実験動物センター, 助教授 (40166476) ; 佐伯 圭一 国立精神神経センター, 神経研究所, 流動研究員
• キーワード: mouse hepatitis virus / spike protein / viral receptor / transgenic mouse / gene targeting / receptor-binding site / virus-binding site

研究概要

本年度は、遺伝子工学的な手法を用いて培養細胞レベルで感受性細胞から抵抗性細胞への変換のための基礎的な実験を行った。感受性培養細胞表面に存在するMHVリセプターを、ウイルス表面に存在するS蛋白のリセプター結合部位であるN末端330個のアミノ酸からなる領域(S1N330)で覆うことにより、ウイルスに対する抵抗性細胞を作出するために、S1N330遺伝子を培養細胞発現ベクターに組み込み、MHV感受性DBT細胞での発現を検討した。現在のところ、蛍光抗体法ではS1N330の発現は検出されていない。また、そのようなDBT細胞はMHVに対しても抵抗性を示すことがない事実から、今回用いた発現ベクター(pcDL-SRα)では発現量が低く、MHV抵抗性に変換できないと推測された。今後、更に強いプロモーター活性をもつ発現ベクターに組み込み、抵抗性細胞の樹立を試みる予定である。
MHV抵抗性と考えられるMHVリセプター遺伝子のノックアウトマウスの作出のための基礎的な実験として、MHVリセプターのどの部位が実際にウイルス結合活性を示すのかを知る目的で、ウイルス結合活性の高いリセプターR1と活性の極めて低いR2のキメラ蛋白を作成し、解析した。その結果、リセプターのNドメインのアミノ酸88から94番目からなる部位に、ウイルス結合に極めて重要なアミノ酸が存在すること、またアミノ酸72から77番目にも重要なアミノ酸があることが判明した。今後、これらの部位について、更に詳細な検討を行いリセプターのウイルス結合部位を正確に同定したい。また、マウスリセプター遺伝子のウイルス結合部位を破壊するtargetingベクターを作成し、MHVリセプターのノックアウトマウスの作出に挑みたい。

研究成果

• [文献書誌] Ohtuska,N.,Yamada,Y.K.,& Taguchi,F.: "Difference in virus-binding activity of two distinct receptor proteins for mouse hepatitis virus." Journal of general Virology. 77. 1683-1692 (1996)
• [文献書誌] Suzuki,H.& Taguchi,F.: "Analysis of the receptor-binding site of murine coronavirus spike protein." Journal of Virology. 70. 2632-2636 (1996)
• [文献書誌] Yamada,Y.K.,Takimoto,K.,Yabe,M.& Taguchi,F.: "Acquired fusion activity of a murine coronavirus MHV-2 variant with mutations in the proteolytic cleavaage site and the signal sequence of the S protein." Virology. 227. 215-219 (1997)
• [文献書誌] Watanabe,Y.,Ebukuro,M.,Yagami,K.,et al.: "Chromosomal mapping of human angiotensinogen gene and human renin gene by fluorescence in situ hybridization (FISH) in transgenic mice." Experimental Animals. 45. 265-269 (1996)
• [文献書誌] Hayashi,M.,Okada,F.,et al.: "Cytotoxic activity induced by intramuscular injection of plasmid DNA expressing the nucleocapsid proteino of the JHM straain of mouse hepatitis virus into C57BL/6 mice." Journal of Veterinary Medical Science. 58. 731-735 (1996)
• [文献書誌] 田口文広: "マウス肝炎ウイルススパイク蛋白の構造と機能" ウイルス. 46. 109-117 (1996)