研究概要 |
近赤外光を用いた組織酸素計測に関しては,理想条件下では,ある程度の理論的根拠が与えられてはいるものの,実測時の種々の誤差要因に関しては,系統的な基礎研究がほとんどなれておらず,使用報告例が急増するに伴い,測定データの信頼性と解釈が大きな問題となりつつある.本研究では,近赤外光を用いた生体組織酸素モニタの計測特性を解析し,種々の誤差要因の影響を明らかにして,測定精度の大幅な向上を図ると共に,小型で携帯可能な装置として,医学の新たな分野に適用することを目的としている.本年度は,シュミレーションにより測定誤差要因の解明を行い,その要因を除去可能なマルチセンサ方式の装置を試作し,ファントムモデム実験と生体での実測により誤差要因の影響を検証した. 組織酸素計測では,測定対象組織とセンサ間の介在組織が,測定結果に最も大きく影響すると推測される.そこで,筋組織を対象に,介在する脂肪層が測定値に及ぼす影響をモンテカルロシュミレーションにより検証し,脂肪層の厚みが測定感度に大きな影響を及ぼすことを明らかにした. 脂肪層の影響を除去するために,複数個のセンサを配置したマルチセンサ方式の装置を試作し,脂肪層と筋肉層かなる2層の組織ファントムにおいて,脂肪層の厚み,測定感度,受光量などの関係を定量計測した.また,ヒトを対象にした実測では,エルゴメータ負荷試験時の大腿部外側広筋の酸素濃度変化量を測定し,測定感度と脂肪層の厚みの関係を調べた.この結果,シミュレーションおよびファントム実験の結果と同様に,脂肪層の介在が測定値に大きく影響することが示された. 以上の結果より,近赤外光を用いた組織酸素計測において,脂肪層の存在は無視し得ないものなのであることを実証するとともに,その影響を補正するためのいくつかの手法を見出すことができた.
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