研究概要 |
近赤外光を用いた組織酸素計測は非侵襲的に実時間で組織の酸素濃度をモニタできるため,臨床的に極めて有用な測定法である.しかし,この手法は均質系の理論に基づいており,頭蓋,脂肪などが介在する実際の不均質組織では,測定感度が大きく異なることが問題点として認識され始めている.本研究は,筋組織酸素濃度計測において問題となる脂肪層に着目し,脂肪層の影響を補正して,筋組織酸素濃度の絶対値計測が可能な装置を開発することを目的としている.本年度までに,以下の成果を挙げた.1.同時多点計測が可能なように,送受光器間距離の異なるマルチセンサ方式の近赤外光組織酸素モニタを開発した.2.開発装置を用い,大腿外側広筋における自転車エルゴメータ負荷試験,前腕における虚血試験を実施するとともに,超音波診断装置で脂肪層の厚みを測定し,脂肪層の存在が測定感度に大きく影響することを実証した.3.脂肪層(寒天と酸化チタン粒子)と筋肉層(Intralipid溶液と牛血)からなるファントムを作成し,酸素化・脱酸素化ヘモグロビンの濃度と吸光度変化の関係を求め,脂肪層が厚くなると測定感度が著しく減少するとともに,非直線性が顕著になることを見いだした.4.脂肪層と筋肉層からなる2層3次元モデルでモンテカルロシミュレーションを実施し,シミュレーションの結果より実測およびファントム実験の結果の妥当性を確認するとともに,種々の条件下で系統的な解析を実施した.5.以上の結果から,近赤外光組織酸素計測法の測定感度と脂肪厚の関係を決定することができた.6.さらに,測定感度の低下とともに受光量は増加し,それらに直線関係があることを見いだし,その関係を用いて測定感度を補正する手法を提案して,その有効性をin vivo測定で検証した.
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